
広告マンガの歴史とは?業界のパイオニアにインタビュー
今や広告手法の1つとしてその地位が確率されつつある「広告マンガ」。今回は、広告マンガを日本で初めて事業化したトレンド・プロの創業者、岡崎 充(現:トレンド・プロ相談役)に広告マンガの歴史について伺いました。
広告マンガ事業の開拓〜toCからtoBへ〜
岡崎 充(現:トレンド・プロ相談役)
━━まず、広告マンガの起こりはいつ頃だったのでしょうか?
1980年代半ば頃だったと記憶しています。ただ、当時はほとんど見かけることはなく、進研ゼミのマンガDMくらいだったのではないでしょうか。ましてや、広告マンガを専門に制作する企業も漫画家も、当時はいませんでしたね。
1988年、日本で初めて広告マンガをビジネスにしたのがトレンド・プロでした。ですので、広告マンガの歴史を語るとなると、必然的にトレンド・プロの歩みをなぞることになりますが、ご容赦ください。
━━創業当時は広告マンガはほとんど無かったとのことですが、なぜ広告マンガ事業を始めようと思ったのでしょうか?
大手がやらないニッチな分野にこそ商機があると見込んだからです。
ニッチな分野の中で、なぜ広告マンガを選んだか?それは、起業する前にいたヤマハ発動機で、重役にプレゼンをしたことがきっかけです。
「普通のプレゼン資料では、適当に読み流されてしまう」
そう思った私は、プレゼン資料は作らず会場を真っ暗にしてスライドで説明を始めました。その内容こそが、ストーリー仕立ての漫画を使った紙芝居なんです。すると、みんな食い入るようにその内容に興味を持っていただき、大受けしたんです。
社内であっても伝えたい情報をしっかり伝えることは、案外難しいんですよね。ただ、イラストやマンガならそれができる。このプレゼンを通じて、マンガはビジネスに活用できるポテンシャルがあることに気づきました。それに、日本人は老若男女問わずマンガ好きだということは肌で感じていましたしね。
マンガ事業を立ち上げた当初は、「広告」というより、結婚式用にカップルのなれそめを描いたマンガ、老人ホームに置く自伝マンガ、教科書のマンガ化などをメインの事業として世の中に広めていこうと考えていました。
━━広告マンガの草創期はtoCがメインだったんですね!では、一番最初に作ったマンガはどのようなものだったのですか?
カップルのなれそめマンガ、いわゆるブライダルコミックでした。結婚式で配るマンガ冊子で、カップルには人気を得られたのですが、当時はちょうどホームビデオが普及し始めた時代。しかも、この形態だと利益がほとんど上がらず…。ビジネスモデルとしては中々厳しいものでした。
とはいえ、収穫もありました。マンガを作るにあたり漫画家を募集したところ、想像以上の応募があったんです。彼らに話を聞くと「こんな会社を待っていました!」と。
当時の漫画はエンタメのみで、漫画家が飯を食っていく手段は雑誌で連載を持つことしかなかったため、彼らはそれ以外でも漫画を活かせる機会を待ち望んでいたのです。漫画家の才能を活かせる新しい選択肢を作れたことは、とても嬉しかったですね。
広告マンガ市場の拡大と、コミカライズ書籍の発展
━━━そこから「広告マンガ」が普及するようになるまでには、どんなことがあったのでしょうか?
起業から5か月後ごろに、宣伝・広告の情報誌『宣伝会議』に広告を出稿したことが大きな転換点でした。ビジネスマンの読者が多いこの雑誌に「私たちは 文章をマンガに変換します」と銘打った広告を出したところ、翌日には企業や代理店、専門学校から問い合わせの電話が殺到しました。これをきっかけに、いわゆる「広告マンガ」の制作が本格的にスタートしました。もともと需要はあったにもかかわらず、これまで誰も旗揚げをしていなかった状況がこのような反響を生んだのだと思います。
ここから「マンガで広告を作った」「マンガで会社案内を作った」などの話題が一気に広まり、広告マンガが徐々に知れ渡るようになりました。それと同時に、マンガ制作事業を扱う競合も現れ始めましたね。
━━現在は官公庁もマンガを積極的に活用していますが、これも広告マンガと同時期に広まったのでしょうか?
そうですね。当時から官公庁や地方自治体の受けは良く、同じ予算なら『マンガ』はありだと好意的でした。
初期の官公庁案件の代表作としては、93年日本銀行発行/監修:石ノ森章太郎『お金がわかるロールプレイング・コミック IF YOU HAVE ¥1,000,000』、日本初の白書の漫画版『マンガで見る 環境白書』(1994~2001)ですね。マンガ好きは日本中どこにでもいますから、官公庁にもマンガを使うメリットを理解していただけたのでしょう。これ以降沢山のマンガ制作を行っています。
マンガで見る環境白書シリーズ
━━起業から現在まで、広告マンガ市場はどのような動きがあったのですか?
88年にトレンド・プロが創業して、数年で同業他社がいくつもできるなど、勢いのある業界となっていきました。しかし、その約10年後、バブル崩壊の煽りを受けてほぼ全ての競合が潰れてしまったんです。
トレンド・プロは、なんとか持ちこたえたものの、96年~98年にかけては経営も厳しく、社員が次々と辞めていきました。
再びビジネスが軌道に乗ったのは1998年ごろでした。日本経済が全体的に低迷していた中、金融の自由化によって金融業界の広告が爆発的に増加。金融商品には形がないため、漫画を使った手法が大いに受け入れられたのでした。インターネットの普及に伴い、印刷物のマンガだけではなく、webサイトでデジタルコミックやバナーの依頼も殺到しましたね。
2001年からはWEB上で閲覧できる広告アニメ制作事業に着手しました。新たにクリエイターを採用し、大手代理店、大手新聞社に企画を持ち込み、大きな成果を上げることができました。今のマンガ動画の走りとも言えます。
出版物の制作も同時期から徐々に増えていきました。
━━いわゆるビジネスコミックですね!
はい。と言っても、初期のコミカライズ書籍はビジネス書ではなく、参考書がメインでした。オーム社から新施策としてコミカライズのお話をいただき『マンガでわかる福祉住環境コーディネーター』と『マンガでわかる秘書検定』を作ったのが初めての案件です。
その後、再びオーム社からのご依頼で『マンガでわかる統計学』を制作したところ、これが大ヒット。統計学の入門書として多くの読者に選ばれ、日本だけでなくアメリカのハーバード大学の生協にも平積みされる程でした。
マンガでわかる統計学
ビジネス書のコミカライズが流行り出したのは、神田昌典氏の著作がヒットしてビジネス書ブームに火がついてからです。98年以降、出版物の売り上げは右肩下がりでしたが、その中でもビジネスコミックは打率が非常に良く、8割が重版している状態でした。さらに、原著も合わせて売れるため出版社にとっては一石二鳥のメリットがありました。
ビジネスコミックが重版される要因は、マンガの読みやすさ・わかりやすさから多くの読者に選ばれることはもちろん、企業や管理職が若手社員教育のために「まとめ買い」する傾向があることも大きな後押しになっています。『ザ・ゴール』などはその典型ですね。
(参照:https://galapagosstore.com/web/book/detail/mbj-20142-120706044-001-001)
━━そうだったんですね!広告マンガの歴史を知ると、マンガの持つ様々な力がよくわかりますね。
昨年大ヒットした『鬼滅の刃』を見ても分かるように、マンガは国内外に大きな影響力を持っています。
絵の持つインパクトだけでなく、ストーリーの構成力・物語の作り込みは一朝一夕ではできない職人技です。このマンガの力をエンタメだけでなく、ビジネスや教育などの場においても幅広い用途で活用できる未来が訪れることを期待しています。
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インタビューは以上になります。
トレンド・プロでは岡崎 寛之新社長のもと、広告マンガの30年の歴史と経験を受け継ぎ、さらなる発展を目指してマンガの可能性を追求しています。
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